115 竹内洋 革新幻想の戦後史 中公文庫上・下 2015.9.25

(初出 中央公論新社2011.10)
佐渡出身で教育社会学を研究された著者と遠隔の談話会でお出会いし、著書を数冊読んでみました。その中の一冊です。「自分史としての戦後史」を多くの人物並びにデータとともに実証的に、政治家、総合雑誌、リベラリズム、知識人、教育学者、左翼運動とその挫折等が語られます。かつて、「岩波・朝日などの進歩的文化人」が影響力を持った時代がありました。「同調集団内の忠誠競争」、「ケインズの美人投票モデル」、「私大株式会社」、「自分の一生を農村で送りたくはない」など、多くのことを再整理し明示してくれます。ベトナム戦争がありベ平連の活動もありました。今、昭和が終わり、既に平成31年が過ぎ、令和4年になりました。昭和の時代に活躍された多くの方々の訃報を毎日のように聞きますし、浅間山荘事件は50年前のことで、名画を上映してきた神保町の岩波ホールは今年7月に閉館されるそうです。昭和がどんどん遠くなるのを感じます。多くの事件があった一方で、「社会運動家には元々親切な人たちが多かった」との事に共感します。終章には、「民主主義と教育の大衆化の帰結が大衆エゴイズムであった」とあり、まったく同感です。「今だけ、金だけ、自分だけ」といわれる現在とは、幻想とはいえ、対局の時代の空気があったことを気づかせてくれます。友人が同書には、「戦後の共産党や社会党のことがあまり書かれていない」と語っていたので、併せて、池上彰・佐藤優の新書「真説日本左翼史(戦後左派の源流) 1945-1960」と「激動日本左翼史(学生運動と過激派)1960-1972」を読んでみました。それによって時代のマクロな流れが理解でき、ご自身の体験から展開された竹内氏のこの本への理解も深まりました。左・右どちらの立場でも、疾風怒濤を過ごす若者の将来をつぶさない責任が、先輩世代にはあるのだとの思いを強くします。