神谷美恵子 生きがいについて、みすず書房、1966年初版発行

reason for living
leprosity. hanssen deaseas

神谷美恵子 生きがいについて、みすず書房、1966年初版発行/1980年『神谷美恵子著作集 第1巻「生きがいについて」』
友人からの「20代に、これからどう生きるか迷ったとき、同書に出会った」との勧めにしたがい、読んでみました。3章「生きがいを求める心」の「生存充実感への欲求」、6章「生きがい喪失者の心の世界」の「破局感と足場の喪失」、など随所に感動しつつ読み進めました。旅行やイベントのブームが再燃しはじめましたが、さて、我々の大事なことは、身近なことでないかと、3章で気づかせてくれます。お庭に「タイサンボク」のある、「日々退屈だと」話されること多いご近所の高齢のご婦人には、少しでも元気が出るように、その章にある中学の先生が書いたという文章のコピーを差し上げました。6章では、失恋、病気、近親者の喪失、老齢等、「足場の喪失」を描くところに共感しました。誰かの為にといった心の支えは、生きがいのひとつですが、一方で喪失したときの空白は、生きる気力を無くさせます。「若きウエルテルの悩み」を読んだという若い友人にも同書を薦めてみたく思っています。大正生まれの、私の父は、母が亡くなって、しばらくは、「俺が先に逝くはずだった」と繰り返し話していました。今では、電話をすれば「長生きしすぎた」と、良く口にします。それでも、我々は、生き抜くしかない訳で、さてどうするかとの大問題に真正面から取り組んだ同書に感謝します。年代・性別、あるいは同じ人でも年齢によって読み方は違って来ましょう。多くの方に読んでいただきたい本です。


内容
〇いったい私たちの毎日の生活を生きるかいあるように感じさせているものは何であろうか。
ひとたび生きがいをうしなったら、どんなふうにしてまた新しい生きがいを見いだすのだろうか
神谷美恵子はつねに苦しむひと、悲しむひとのそばにあろうとした。
本書は、ひとが生きていくことへの深いいとおしみと、たゆみない思索に支えられた、まさに生きた思想の結晶である。
[1966年初版発行/1980年『神谷美恵子著作集 第1巻「生きがいについて」』初版発行]

目次
はじめに
1 生きがいということば
2 生きがいを感じる心
感情としての生きがい感/認識としての生きがい感/使命感
3 生きがいを求める心
生存充実感への欲求/変化への欲求/未来性への欲求/反響への欲求/自由への欲求/自己実現への欲求/意味と価値への欲求
4 生きがいの対象
生きがいの特徴/生きがいのつくる心の世界/生きがいと情熱/生きがいのさまざま
5 生きがいをうばい去るもの
生存の根底にあるもの/運命というもの/難病にかかること/愛する者に死なれること/人生への夢がこわれること/罪を犯したこと/死と直面すること
6 生きがい喪失者の心の世界
破局感と足場の喪失/価値体系の崩壊/疎外と孤独/無意味感と絶望/否定意識/肉体との関係/自己との関係/不安苦しみ/悲しみ/苦悩の意味
7 新しい生きがいを求めて
自殺をふみとどまらせるもの/運命への反抗から受容へ/悲しみとの融和/過去との対決/死との融和/価値体系の変革/はじき出されたひとの行方
8 新しい生きがいの発見
生存目標の変化の様式/同じ形での代償/変形/置きかえ/心の構造の変化/ひろがりの変化/心の奥行の変化
9 精神的な生きがい
認識と思索のよろこび/審美と創造のよろこび/愛のよろこび/宗教的なよろこび/代償としての宗教/積極的な生きがいとしての宗教
10 心の世界の変革
変革体験について/自然との融合体験/宗教的変革体験/変革体験の特徴/変革体験の意味
11 現世へのもどりかた
もどりかたのさまざま/のこされた問題
おわりに
引用文献
『生きがいについて』執筆日記
解説  柳田邦男