土屋信行、首都水没

首都水没、土屋信行、文春新書980

2014年(平成26年)820日、第一刷発行

河川協会の講演などを再度まとめられたようである。講演と比べて、「お囲い堤」のところなどトーンが抑えてあるように思った。いずれにしても、仕事の経験に基づいた具体性を持ちつつ、東京が置かれている、洪水に対する脆弱性と対策について概観できる素晴らしい本である。

 

目次

まえがき・・・世界一危ない首都東京 

  1. 山の手にも洪水は起こる

    武蔵野台地とゲリラ豪雨洪水 / 神戸市利賀川水難事故 / 豊島下水道水難事故 / ゲリラ豪雨に弱い武蔵野台地 / ゲリラ豪雨を降らせる「かなとこ雲」/ ゲリラ豪雨を捕まえよう! / 狩野川台風が教える首都東京の水害!

  2. 東京は世界一危ない場所にある

    東京は世界一の災害危険都市 / 都市開発が招いた歪み / 災害・防災アセスメントが必要 / 東京の発展が災害を増大させる / 江戸・東京で繰り返す大災害 / 必ず来る首都東京の大水害

  3. 地球温暖化で首都は壊滅する!

    気候変動の恐ろしい未来 / 頻発する大規模水害 / 東京の大規模水害予測 / 地下鉄洪水の被害予測 / 地下トンネルが広げる洪水 / 歩道にある変圧トランス / 海面上昇で首都水没 / 東京を壊滅させる高潮の恐怖 / 人名と都市機能を奪う東京リアス式地形 / 海面水温上昇が生む超大型台風 / 日本近海でも成長する台風 / 日本を必ず襲う台風と洪水 / 日本周辺で大型化した平成17年台風14号 / 温暖化対策が遅い日本(国際的な温暖化に対する無策の日本)

  4. 利根川の東遷事業が東京を危険都市にした

    いちばん洪水の集まるところに築いた江戸 / 利根川の東遷事業 / 荒川の西遷事業 / 増大した洪水の危険性 / なぜ危険なところに江戸を造ったか? / 防災組織だった村祭り

  5. 雨が降らなくても洪水になる「地震洪水」

    ゼロメートル地帯の出現! / 地下水の汲み上げで地盤沈下 / 非常にもろいカミソリ堤防 / 崩れない堤防は富士山型 / 水が浸み出してくる! / 江戸時代の排水路「下水堀」/ 地盤沈下を止めろ! / 無かった浦和水脈 / 365日危険な地震洪水 / 地震があったら地下鉄から逃げろ? / スーパー堤防は「命山」 / オランダにある日本型堤防 / 地下水は汲み放題の宝の山

  6. なぜ東京は世界一危ないのか?

    日本は火山と地震の国 / 滝のような急流河川 / 天井川が洪水になると危険 / 自然がつくった洪積層と人がつくる沖積層 / 気象を決める日本の地形 / 北緯36度から38度で最大の雪量 / 雨を降らせる4気団 / 日本を特徴づける四季 / 雨がつくった日本文化

  7. 東京の三大水害に学ぶ

明治43年の「東京大水害」/ 「荒川放水路」開削と都心を守るお囲い堤防 / 「荒川放水路の開削工事 / 土木工事を発展させた青山士 / 洪水と共に暮らす知恵 / 荒川放水路開削に「11歳の殉職者」 / 洪水の脅威と恵み / 洪水を制御していた「中条堤」/ 大切な流域全体の治水 / 国民の命を棄てた事業仕分け / 東京にある遊水地と論所提

大正6年の「大海嘯(大津波)/ 東京府南葛飾郡の葛西尋常高等小学校の体験記録 / 「東京日日新聞」「大阪朝日新聞」「報知新聞」/ 東京府知事井上友一の救助活動 / 葛西村「仲割」の記録 / 「棺箱! 送って頂きたい!」 / 消えた「行徳の火」 /

「新川梨」 / 三匹の獅子舞    

昭和22年の「カスリーン台風」 / 栗橋「堤防決壊」 / 東京を守る「桜堤」決壊 / 洪水でも切らなかった「新川提」/ 洪水は流域で守るもの / 暗闇の避難訓練 / 洪水の「江戸川」を渡って避難

  1. 洪水は流域一帯で起こっている!

    ばらばらだった避難勧告と避難指示 / 洪水は自治体の範囲を超えて起こるもの / 誰も避難しない避難勧告、避難指示 / XRAINを活用した事前避難 / 避難の判断がばらばらでいいのか? / 洪水対策は流域で取り組むべきもの / アメリカの危機管理体制 / 日本に必要な統合防災機関

  2. 強靭な日本を創るために

     予測できていた東日本大震災 / 「女川原発」はなぜ無事だったのか? / 被害のなかった「神社仏閣」 / 水害対策と地震対策は別 / 洪水対策は国家の安全保障! / 東日本大震災に学び、強靭な日本を

あとがき ―――美しい日本、安全な首都へ(災害を文化にする)p243

参考文献 p247

土屋信行:1975年東京都入都、道路、橋梁、下水道、まちづくり、河川事業に従事。この間、環状7号、8号線の設計・建築、下水処理場・ポンプ場設計・建設、多摩ニュータウン、つくばエクスプレス六町駅土地区画整理事業、秋葉原及び汐留再開発事業のまちづくりに携わる。ゼロメートル地帯の洪水の安全を図るため、2008年に、海抜ゼロメートル世界都市サミットを開催し、幅広く災害対策に取り組んでいる。東日本大震災の復興では、まちづくりの学識経験者委員として、宮城県女川町の復興に取り組んでいる。現在、公益財団法人えどがわ環境財団理事長、公益財団法人リバーフロント研究所理事、一般社団法人全日本土地区画整理士会理事、土木学会東日本大震災特別委員会タスクフォース委員、ものつくり大学非常勤講師。