チャーチル、第二次世界大戦1、河出文庫、2010 (初版1983)

チャーチル、第二次世界大戦1、河出文庫、2010 (初版1983)

 

P245:

善意で有能な人々によってなされた、誤った判断のこの悲しい物語も、今や最高潮に達した。

(中略)われわれが相次いで受け入れ、あるいは捨て去ったものを振り返って見よう

厳粛な条約によって武装解除されたドイツ、

厳粛な条約を破って再武装したドイツ、

捨て去られた空軍の優位、あるいは空軍の均等、

強引に占領されたラインラント、

すでに構築された、あるいは構築中だったジークフリート線、

成立したベルリン=ローマ枢軸、

ドイツにむさぼり食われ、かみ砕かれたオーストリア

見捨てられた上にミュンヘン協定で破滅したチェコスロバキア

ドイツの手に帰した要塞線

その後のドイツ軍のために武器弾薬を作りつつあった強大なスコダ兵器工場

アメリカの介入によってヨーロッパの事態に安定をもたらし、あるいは解決させようとして簡単にはねつけられたルーズベルト大統領の努力

欧州列強に加わってチェコスロバキアをどこまでも救おうとして、これまた無視されたソビエト・ロシアの疑いなき積極性

イギリス自身がフランス戦線強化にわずかに二個師団より供給出来なかった当時、なお未熟だったドイツ軍に対して、三十五師団を持っていたチェコの兵力が捨てられたこと

――― すべては風とともに去ったのである。

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