ヘンリー ポールソン、ポールソン回顧録、2010/10/21

ヘンリー ポールソン、ポールソン回顧録、日本経済新聞社、 2010/10/21

 アマゾンの解説では、以下の通り。

「リーマン・ブラザーズを潰し、ベアー・スターンズとAIGを救済した理由とは何か。バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収はいかに進行したのか。三菱UFJにモルガン・スタンレーへの出資を決断させるために、アメリカ財務省が使った手段とは何か。アメリカ経済、ひいては世界経済を襲った未曾有の金融危機。その中心で、財務長官として危機を瀬戸際で食い止めたポールソンが、その全てを明らかにする。」全574ページ。

 

キーワード:

アメリカ財務長官、リーマン・ブラザーズ、ベアー・スターンズ、AIG、モルガン・スタンレー、三菱UFJ、バンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ、ファニーメイ、フレディマック、GM、シティバンク、2008

 

メモ:

P551:

数多くの教訓は以下の重要な四点に集約できる。

1、アメリカの金融システムの行き過ぎはしかるべき批判を受けているが、根源として忘れてならないのは世界の主要な経済間に構造的な不均衡があり、そのせいで国境を越えて凄まじい資本の移動が起きた。(アメリカでは消費が貯蓄をはるかに上回っている。このため原油輸出国、あるいは中国や日本のような貯蓄率が高く国内消費の比率の低いアジア諸国から、巨額の借り入れを行わざるをえない。危機そのものは緩和されたが、不均衡はつづいており対処が求められる。)

2、現行の規制体制はかなり以前につぎはぎによって生み出されたものであり、どうしようもなく時代に取り残されたままだ。(重複、空白、規制機関どうしの好ましくない競争などが散見される。金融イノベーションに先を越されてばかりであるため、手直しをして、グローバル資本市場のたゆみない進化に対応できるだけの力量と権限を、規制機関に備えさせる必要がある。)

3、金融システムがあまりに過剰なレバレッジを内包しており、その例証として資本と流動性にゆとりがなくなっていた。高レバレッジ投資の対象となったのは、主として非常に複雑で理解しにくい金融商品である。(しかし、金融機関の安全性と安定性を高めるうえで流動性が果たすべき重要な役割は、十分には理解されていない。信用危機をきっかけに、流動性を保つための稚拙な手法が蔓延する事実が浮き彫りになった。なかでも不安定な短期借入れへの依存度の高さが顕著だった。短期借入れに強く頼る金融機関は、逆風が吹いた時への備えとして手元に潤沢な現金を持っておく必要があるが、これを怠った事例が多い。わたしの見解では、流動性のゆとり不足は、資本不足よりも重大な問題だった。)

4、最大手の金融機関はあまりに大きすぎて複雑化しているため、危険なほど大きなリスクをはらんでいる。(アメリカでは、上位十社による金融資産の占有率は1990年の10%から現在では60%近くにまで上昇している。このように集中度が劇的に高まったうえに相互のつながりが緊密化したことが意味するのは、一握りのきわめて巨大な金融機関のうちひとつでも倒れれば、金融システムのかなりの部分が損なわれ、ドミノ倒しのように残りも道づれにされるということだ。「あまりに巨大であるがゆえに波状させるわけにはいかない (too big too fail)」は机上の概念にとどまらず現実の懸念となっており、何とかしなくてはならない。)

 

P555:世界経済の規模が60兆ドル、アメリカ経済が14兆ドルであるから、我が国の数々のきわめて大きな金融機関を擁し、その規模や複雑さがグローバル市場の顧客ニーズに応じて増大していくのは避けられない。アメリカ国内には、多数の大手に加えて依然として八千の小規模な金融機関があるため、競争圧力によって引きつづき、業界再編が迫られるだろう。

 

P558:

上級幹部については、報酬として付与された自社株の -すべてではないにせよ- 大半の売却を禁止するのが望ましい。引退ないし転職の際にも、株式の付与スケジュールは従来通りとして、前倒しは避けるべきである。金融危機により社会や納税者に多大なコストがしわ寄せされたため、当然ながらこれに対する怒りが燃えさかっており、この怒りを意識しておくことは金融機関の経営を担う人々にとって非常に重要である。率先垂範して自分たちの報酬に多大な制約を設け、社風の改善を促すのが、幹部としての責務だろう。

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経営者報酬に関しては、ポールソンは微妙な立場をとっている。

公的資金を受けた企業の経営者報酬に制限を設けると、多くの金融機関から制度の利用意欲を奪ってしまう。

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