トマ・ピケティ(著)、21世紀の資本 2014/12/9

トマ・ピケティ()、21世紀の資本 2014/12/9

山形浩生 (翻訳), 守岡桜 (翻訳), 森本正史 (翻訳)

 

目次

はじめに

第I部 所得と資本

第1章 所得と産出

第2章 経済成長

第II部 資本/所得比率の動学

第3章 資本の変化

第4章 古いヨーロッパから新世界へ

第5章 長期的に見た資本/所得比率

第6章 21世紀における資本と労働の分配

第II部 格差の構造

   第7章 格差と集中 - 予備的な見通し

 第8章 二つの世界

 第9章 労働所得の格差

 第20章 資本所有の格差

 第21章 長期的に見た能力と相続

 第22章 21世紀における世界的な富の格差

               資本収益率の格差

               世界金持ちランキングの推移

               億万長者ランキングから「世界資産報告」まで

               資産ランキングに見る相続人たちと企業家たち

               富の道徳的階層

               大学基金の純粋な収益

              インフレが資本収益の格差にもたらす影響とは

              ソヴリン・ウェルス・ファンドの収益―資本と政治

              ソヴリン・ウェルス・ファンドは世界を所有するか

              中国は世界を所有するのか

              国際的格差拡大、オリガルヒ的格差拡大

                富裕国は本当に貧しいのか

IV部 21世紀の資本規制

 第13章 21世紀の社会国家

      2008年金融危機と国家の復活

      20世紀における社会国家の成長

      社会国家の形

      現代の所得再分配―権利の論理

      社会国家を解体するよりは現代化する

      教育制度は社会的モビリティを促進するだろうか?

      年金の将来―ペイゴー方式と低成長

      貧困国と新興国における社会国家 

 第14章 累進所得税再考

      累進課税の問題、

      累進課税―限定的だが本質的な役割

      20世紀における累進税制―とらえどころのない混沌の産物

      フランス第三共和国における累進課税

      過剰な所得に対する没収的な課税―米国の発明

      重役給与の爆発―課税の役割

      最高限界税率の問題再考

 第15章 世界的な資本税

      世界的な資本税―便利な空想

      民主的、金融的な透明性

      簡単な解決策―銀行情報の自動送信

      資本税の狙いとは?

      貢献の論理、インセンティブの論理

      ヨーロッパ富裕税の設計図

      歴史的に見た資本課税

      別の形態の規制―保護主義と資本統制

      中国での資本統制の謎

      石油レントの再分配

      移民による再分配

 第16章 公的債務の問題

      公的債務削減―資本課税、インフレ、緊縮財政

      インフレは富を再分配するか?

      中央銀行は何をするのか?

      お金の創造と国民資本

      キプロス危機―資本税と銀行規制が力をあわせるとき

      ユーロ―21世紀の国家なき通貨?

      欧州統合の問題

      21世紀における政府と資本蓄積

      法律と政治

      気候変動と公的資本

      経済的透明性と資本の民主的なコントロール 

おわりに 

 

p432

これら19世紀の小説家たちは、格差はある程度必要不可欠なものとして世界を描いている。もしも十分に裕福な少数の人々が存在しなければ、誰も生存以外のことに頭がまわらなかっただろうと考えていた。

このような格差に対する考えは、少なくともそれを能力主義に起因するものとして描かなかった点では賞賛に値する。ある意味で、この少数の人々はその他のみんなのために生きるように選ばれた人々であったが、誰もこの少数の人々が、他の人々よりも能力が高いとか高潔だとかいうふりはしていない。

(中略)

現代の能力主義社会、特に米国は敗者に対してずっと厳しい。なぜなら、その社会は、根底の人々の低い生産性は言うに及ばず、正義、美徳、能力が優れているから自分たちの優位性は正当化されると主張したがるからだ。

 

p432

スーパー経営者に対する天文学的報酬額に対するこの種の正当化が良く聞かれるようになった。極端な能力主義によって、スーパー経営者と不労所得生活者の競争がどちらにも属さない人々を犠牲にして行われることになる。

 

P512

現状では、責任の一端は富裕国と国際機関にもあるようだ。

脱植民地化プロセスは、1950-1970年にかけて、多数の混乱したエピソードだらけだった。旧宗主国との独立戦争、いささか、恣意的な国境、冷戦と結びついた軍事的緊張、不首尾に終わった社会主義の実験、時にはこれらすべてが同時に起こった。

さらに1980年代以降、先進国から生じた新しいウルトラ自由化の波が貧困国を襲い、公共部門を切り離して、経済発展を育むのに適した税制を発達させるという優先度を引き下げるよう強制した。

最近の研究によれば、1980-1990年の最貧国における政府歳入減は、相当部分が関税の減少によるものだったという。関税からの歳入は、1970年代には国民所得の約5%に相当していた。

 

P518

資本所得は累進課税からほとんど除外されているのだ。

 

P601-603

資本主義の中心的な矛盾 r(民間資本収益率)>g(所得と歳出の成長率)。

不等式r>gは、過去に蓄積された富が産出や賃金より急成長するということだ。(略)。事業者はどうしても不労所得生活者になってしまいがちで、労働以外の何も持たない人々に対してますます支配的な存在になる。いったん生まれた資本は、産出が増えるよりも急速に再生産する。過去が未来を食い尽くすのだ。(略)この富の分配の格差拡大は世界的な規模で起こっているのだ。(略)。資本主義の根本的な矛盾 (r>g)が克服されたという幻想を作り出すには、二回の世界大戦が必要だった。(略)こうしたすさまじい富の格差は、起業精神などとはほとんど関係ないし、成長促進にもまったく役に立たない。またそれは、(略)1789年フランス人権宣言にある「共同の利益」などいっさいもたらさない。