エマニュエル・トッド、問題は英国ではない、EUなのだ、文藝春秋、2016.9.20

今日の世界情勢に関する、著者の最新見解を集めた時事評論集。シーア派イランとスンニ派サウジとアメリカの関りなど新しい視野をもたらしてくれた。

キーワード:テロ、移民、難民、人種差別、経済危機、格差拡大、ポピュリズム、英国EU離脱、トランプ旋風、中国、国家、家族、

 

目次

日本の読者へ――新たな歴史的転換をどう見るか?  p3

1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?    p19

2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」  p59

3 トッドの歴史の方法――「予言」はいかにして可能なのか?   p75

4 人口学から見た2030年の世界――安定化する米・露と不安定化する欧・中  p161

5 中国の未来を「予言」する――幻想の大国を恐れるな  p185

6 パリ同時テロについて――世界の敵はイスラム恐怖症だ  p205

7 宗教的危機とヨーロッパの近代史――自己解説『シャルリとは誰か?』 p225

編集後記  p250

 

メモ:

P67:最近では指導者たちが自分の利益のみを追求するようになってきている。ポピュリズムよりも、そうしたエリートの無責任さこそが問題です。

 

P68:たとえば東大法学部を出た超エリートが自分の階層のエゴイズムを超えて民衆の側に与し、それによって民衆的な政治運動をポピュリズムの罠から救い出す。これが、私が羨望してやまない、国家の自己改革のために登場するリーダーの姿です。

 

P80:内省的な思考をいくら繰り返しても、結局、外の現実にふれることはできない。

 

P86:アルフレッド・エイヤー、「言語・真理・論理」

 

P87:何も言わないために喋る (parler pour ne rien dire)

 

P94:外婚制共同体家族と共産主義勢力の分布がほぼ一致

http://www.yoshiteru.net/entry/20130316/p1

制度経済学派を連想。「社会的な行動様式、集団的な活動などから経済活動を捉える方法論」

 

P100:社会を歴史を動かすのは中産階級。

 

P103:1914年の戦争(第一次世界大戦)は、ある種の集団的狂気でした。自殺率が高くなり、精神疾患やアルコール依存患者数が増えていたのは中産階級でした。

 

P104:最も自殺率が高いのは金利生活者です。

 

P107:学歴は「能力を高める機会」と「社会的身分の保証」の両方を意味している。学歴の高い人が優れた人だとは必ずしも言えません。

 

P148:アメリカが中東の原油をコントロールするのはむしろ、ヨーロッパと日本をコントロールするため。

 

P155:9.11同時多発テロの実行犯の多くは、サウジアラビア人でした。にもかかわらずアメリカは、サウジアラビアとの友好関係を維持し続けました。まったく奇妙なことです。

 

P218:日本人で突出して多かったのが「わからない」という回答でした。日本では自分の意見を留保しておくという態度が非常に多いことは大変興味深いです。

 

P230:ナチスが格段の勢いで擡頭したのはルター主義が崩壊した地方においてでした。

 

P238:経済的危機と宗教的な空白の重なるときが、非常にあぶない。

 

P253:知的なレベルでの経済(学)至上主義が、われわれの知を貧しくし、われわれは危機を前にして何ら対策を取れずにいる。経済(学)至上主義とは、知的ニヒリズムにほかならず、知的エリートの無責任さ、怠惰の証だ。

 

P254:「グローバリズムの終焉」は、「知的ニヒリズムとしての経済(学)至上主義からの脱却」でなければならない。