伊東光晴、ガルブレイス――アメリカ資本主義との格闘、岩波新書、2016.3.19

メモ:

P12:ヨーロッパの「自由」-リベラルが、進歩と平等と結び合い、その内容を豊富にし、時代に合うものになっていき、福祉社会を志向し、社会民主主義を生んでいくのに反して、アメリカの自由主義は、それは自由への侵害、しのびよる社会主義、這いよる共産主義として、福祉への志向を拒否し、その結果、先進国中唯一、医療について、国による国民皆保険制度を持たない国・アメリカを作り出してしまった。

 

P36:多くのノーベル経済学賞、それは本来のノーベル賞とはことなり、スウェーデンの銀行がつくったものであるが、銀行の方針ゆえに福祉国家推進論者は除かれ受賞者の業績のほとんどは、歴史の中で忘れられていく。

 

P87:2001年10月に30年間かかった欧州会社法が成立した。これによりイギリスを除くヨーロッパの一定規模以上の会社は企業行動において株主のみならず、従業員、関連企業、地域社会、顧客など、利害関係者への配慮を法的に義務づけられた。これを「ステイクホルダー・カンパニー」(stakeholder company)という。これに対して株式会社は株主のものであり、その意志によって経営さるべきであるとする企業観を「ストックホルダー・カンパニー」(stockholder company)という。

 

P194:売り崩しというのは、狙った企業の株を、ショートで、安値、安値で売り、安値の底で買い戻して借りた株を返し、売りと買いの差で儲けるというモノ。拓銀の場合、倒産時株価は67円であった。6億株以上がそれか、それ以上の値段で売られている。それが、1円か2円で買ったもので返されている。したがって一株65円以上の儲けが出ていることになる。1998年、私が売り崩しによる利益は、少なくとも拓銀で360億円以上、山一で1800億円以上と言い、書いたのは、これによる。

伊藤光晴、「経済政策」はこれでよいのか、岩波書店、1999

 

P200:サブプライム・ローンからリーマン・ショックを経験した私たちが再考しなければならないのは、なぜリーマン・ショックが起こったかの中に見えるものは、ニューディール治下の金融改革を逆転させた80年代以降の愚かな政治と、過去に学ばない実業界の姿であり、無能な経済学者たちであり、時流に乗るジャーナリストたちの存在である。

 

 

目次

1 アメリカ―対立する二つの極

  (アメリカ社会と思想―イデオロギー化する「自由」とプラグマティズム哲学

   アメリカの経済学―輸入経済学対制度学派)

2 ガルブレイスの半生(生い立ち、そして経済学者への道へ)

3 ガルブレイスの経済学 

  (経済学への前奏曲『アメリカの資本主義』―ガルブレイス流産業組織論

   現代資本主義論の提起―歴史に残る名著『ゆたかな社会』

   成熟した巨大企業体制の解剖―主著『新しい産業国家』

   公共国家のすすめ『経済学と公共目的』―経済的弱者を守る知識人の闘い

  『大恐慌』―私たちは歴史に学ばなければならない)

「新しい産業国家」から「新しい金融国家」の中で―ガルブレイスの晩年