森嶋通夫、サッチャー時代のイギリス―その政治・経済・教育、 岩波新書、1988.12.20
1990年10月から翌年の2月までイギリスに居たとき、サッチャー首相が辞任(11月22日)したことを覚えている。サッチャーの人頭税の導入と、EU加盟反対が問題になっていた。
91年の1月には、第一次湾岸戦争が始まって、オックスフォード郊外の空軍飛行場からも戦闘機トルネードの発進が繰り返された。その数年後、ブエノスアイレスで、フォークランド紛争で亡くなった慰霊の公園に出会った。そこで、サッチャーは完全に悪者だった。
この本は、数年前に古本屋で見つけて積読していた。今回、伊藤光晴著、ガルブレイス、岩波新書に感銘したので、同時代の市場経済導入の流れを理解するために読んでみた。通勤の時間帯によめるのも新書のありがたい所である。
本書の内容は、古びて感じない。今はサッチャーが目指した金融資本主義になり切っているように感じる。この逆を取ってバランスを取るには何が必要なのか、思いめぐらしながら読んだ。
メモ:
p83:サッチャーは、エスタブリッシュメントよりも、そうでない人(disestablishment)を好む。
P97:フォークランドが平和裡にアルゼンチンの手に帰することは、もはや時間の問題だった。
P103:パーキンソン(選挙選を指揮した党幹事長)は自分の元秘書を妾にしていた。彼女との間に子供が出来たことをサッチャーに告げた時、サッチャーは「離婚はするな。妾との関係は絶て」と忠告した。
P118:彼女の大学政策は、利潤原理を教育体制の中に導入せよ、に尽きる。
P180:GNPの成長率を高くするためには、サッチャーがしたように、成長力のない部門を切り捨てるのが一番良い。しかしそのような政策をとれば、文化はしぼみ、人もまた金にならなければ働いたり考えたりしなくなる。
P188:1973年の第一次オイル危機で産業が行き詰まると、福祉部門も過大になり、人々の重荷にすらなった。この頃から、フットボール・フーリガンが横行しだした。
P190:第二次世界大戦は、少なくともヨーロッパでは、連合国対ドイツ第三帝国の戦いであると同時に、連合国を支持するブルジョア階級とドイツに同情をもつ下層階級の階級戦でもあった。
目次:
1 党首、マニフェスト、選挙―英首相の強大な力の背景
2 歴史の車輪を逆転させる女―サッチャーの「信仰復興」(リバイバル)
3 荒れ狂う「反福祉主義(サッチャリズム)」の嵐―悔しかったら頑張りなさい
4 歴史の大河の中で―戦後、挫折、ヨーロッパ化