広井良典、持続可能な医療、ちくま新書、2018.6.6
P11,ポスト高度成長期の日本人は「将来世代への借金の先送り」という、ある種の“麻薬”を手に入れてしまった。
P25,ふたつのM、Military(軍事)とMedical(医療)の二者がアメリカの科学政策の中心的な柱になっている。
P33,最近ではガンに関する免疫療法の薬剤である「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」の公的資料保険での価格設定のあり方が大きな話題となっている。
P34,逆U字カーブ(非・技術期、途上技術期、純粋技術期と、1件当たりの医療費)
P46,健康や長寿はピンポイントのハイテク医療の追求もさることながら、むしろコミュニティや環境、社会全体のあり方を含めた、ある程度シンプルでバランスのとれた生活という、もう少し包括的な次元にあるのではないか。
P58,医療領域は、人の生命や健康に直接関わる領域であり、平等ということが特に重視されるべき分野であり、受けられる医療内容の「階層化」は極力さけるべきである。
P59,日本の医療制度においては「混合診療の禁止」という基本的な考え方がある。
P62,“まず「かかりつけ医」を受診することを促す”という趣旨のもとで、診療所(開業医)の紹介状なしで大病院(2018年4月からは400床以上)を受診した場合には、5千円以上の追加料金をとる仕組みが導入された。
P63,日本の医療報酬は、1病院(とりわけ入院部門)、2高次医療、3チーム医療、4医療の質、という諸点の評価が薄いあるいは弱い。
P65,日本には病院数約8480に対し診療所約10万(2015年)とはるかに多い。
P66:開業医の年収約2887万円。病院勤務医のそれが約1488万円。
P68,開業医の平均収入を現在の2800万円程度から1800万円程度にすると、診療所の数は10万なので、トータルで1兆円となる。この額を、入院医療・高次医療・チーム医療に配分してはどうか。
P85:第3の道、高齢者ケアの領域などで、その人の、人生全体にさかのぼりながら、様々な特技や技能、経験など、その人の持っているプラスの面や可能性を発見し、引き出していこう。という考え方。
P97、介護は他の分野に比較して離職率が全産業分野の平均よりも高くなっている。その背景は介護分野の給与・賃金の低さであり、全産業平均の32.4万円、サービス業全体の27.4万円に対して、介護分野は、23.8万円となっている。(2016年)
P98:東京都の65歳以上の高齢者の数は、2010年の268万人から2040年には412万人と、144万人も増加することが推計されている。
P99,介護領域は市場原理に委ねてしまうと一層低賃金になりがちである。むしろ公的な財政ないし枠組みの中で運営するのが妥当であり、その中で賃金水準を高めていく必要があると同時に職人的な専門職のようなものとして確立し、社会的な評価を高めていくことが重要である。
P124,脳科学の分野においては、他者との相互作用や社会的な関係性こそが人間の脳の形成や機能にとって本質的な意味を持つとする、「ソーシャル・ブレイン」と呼ばれる把握が台頭している。
P127,ケアは「対象との共感・相互作用」が本質的な意味を持つ。関係性の科学、個別性・多様性の科学。再現性(reproducibility)
P138:子供と高齢者は地域密着人口と呼べる存在。
P164,「AI活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策提言」。1人口、2財政・社会保障、3地域、4環境・資源という4つの持続可能性に注目し、日本が持続可能であるための条件やそのためにとられるべき政策を提言する内容の研究。 「都市集中」か「地方分散型」という方向がもっとも本質的な分岐点・選択肢で、健康・格差・幸福等の観点からは「地方分散」が望ましいという結果が示された。 ローカルなコミュニティや自立度を高めていくことが本質的な意味を持つ。
P176,人生前半の社会保障、子供・若者そしてひろく現役世代に向けた社会保障。 失業率が高いのが、高齢者ではなく、10代後半から30代前半の若年層である。
P178,「個人のチャンスの保障」は、“自由放任”によって実現されるのではなく、一定の制度的対応が必要になってくる。
P180,日本は小学校入学前の修学前教育と、大学など高等教育における私費負担の割合が高いことが特徴的である。
日本の社会保障費はすでに年間115兆円という規模に達しているが(2015年)、社会保障全体のほぼ半分(48%)は年金であり、実に55兆円に及ぶ。
P182,目先の損得ばかりでなく、1000兆円に及ぶ政府の借金、将来世代へのツケ回しをこれ以上増やさないことを最優先すべきと考える。
P184:高い所得の者ほど高い年金がもらえる
P188,収入よりもむしろ金融資産(貯蓄)や土地等の格差のほうがずっと大きい。
P203,福祉思想の空洞化
P205:江戸時代における二宮尊徳などの思想や、当時日本の各地に広く存在した「講」のネットワーク、そうした個々の集団を超えた相互扶助の仕組みとその原理となる思想が当時の日本社会に浸透していた。明治の中央集権化の中で忘れられていったが、そのDNAは震災後の様々な動きなどを含め日本社会に残っている。
P209:死亡急増時代と「死生観(わたしはどこから来てどこに行くのか、)の空洞化」
P211,現代の日本社会では、死の意味ひいては生きる意味やリアリティーが見えなくなり希薄化している「死生観の空洞化」とも呼ぶべき事態が進行してきた。
「私の生そして死が、宇宙や生命全体の流れの中で、どのような位置にあり、どのような意味をもっているか、についての考えや理解」
「わたしはどこから来てどこに行くのか。」
P218:生を高らかにうたう近代的な思考が、死に対しては、それを完全な敵として断固として立ち向かう発想を基本的に持っていた。
老いのプロセスの中で、肉体や精神のゆるやかな衰えとともに、徐々に死を受け入れ、和解し同化するという見方。
連続的な死、生と死の間のグラデーション、生から死へのゆるやかな移行という見方も重要ではないか。
P227,現実とは脳が見る(共同の)夢にすぎないという世界観が浸透し始めている。
P235,世界人口は2011年に70億人に達した。2100年には112億人程度でほぼ安定。(国連World Population Prospects, 2015年改定版での中位推計)。2050年時点での人口推計が95億人。21世紀は世界人口の増加の終焉と人口高齢化の世紀となるだろう。
目次
はじめに 「持続可能な医療」への視点、9
第1章 サイエンスとしての医療―医療技術の意味するもの、21
第2章 政策としての医療―医療費の配分と公共性、50
第3章 ケアとしての医療―科学の変容と倫理、88
第4章 コミュニティとしての医療―高齢化・人口減少と地域・まちづくり、134
第5章 社会保障としての医療―「人生前半の社会保障」と持続可能な福祉社会、168
第6章 死生観としての医療―生と死のグラデーション、209
エピローグ グローバル定常型社会と日本の位置、233
あとがき、247