木下 誠也、公共調達解体新書―建設再生に向けた調達制度再構築の道筋、2017.2.1
メモ:
P78:1958年12月には東宮御所の工事を間組が1万円で落札するという事件がニュースとなり、国会においてダンピング防止策が大きな議論となった。
<予定価格は約5千万円だったというから,もちろんこれで工事は行えるわけはない。少し前に行われた大宮御所の取りこわし工事(予定価格約70万円)でも間組は1万円で落札していた。新聞記事に大きく取り上げられ,国会で問題になり,間組は辞退,大手建設7社の共同企業体が随意契約で請負うことで決着した。>
参考:http://www1.ttcn.ne.jp/~iwam/pdf/kensetsujihyo_0806.pdf
P184:最近アメリカでは、価格のみによる競争では公共の利益を損ないかねないことがあるとの考えから、価格以外の要素を含めて総合的に評価をして落札者を決めるという「発注者に最も有利」ということを落札基準として「バリューフォーマネー」を最も高めようという考えが基本となっている。
P204:我が国の建設会社は、品質確保と工期遵守については強みと考えられるが、価格競争力と契約管理能力については弱点と思われる。価格競争力を高める方策として、ローカル化や他国の建設会社との共同受注などを進めることが考えられる。ヨーロッパの企業は現地の大きな建設会社を買収することによって受注を増やしている。現地の人も使ってその地域で長く仕事をする体制を構築することが肝要と思われる。
P256:EU加盟国は、各国の国内法に優先して、EU加盟国間で取り決められたEU指令に従うため、国内法をEU指令に合わせて整備しなければならない義務を負っている。入札手続上、特に重視されているのは、域内無差別による競争の促進であり、発注国以外のEU加盟国の者を差別的に扱うことは禁止されている。
P289:わが国の公共事業調達の変遷
1991年 埼玉土曜会事件、公正取引委員会摘発
1993年 ゼネコン汚職事件
1994年 大規模工事に一般競争入札導入
1998年、建設省、予定価格の事後公表開始
2000年、元建設大臣受託収賄逮捕
2005年、公共事業品確法制定、独禁法改正(課徴金引き上げ、減免制度など)
大手ゼネコン「談合決別宣言」
2006年 国土交通省、ダンピング防止策を強化
2014年 公共工事品確法改正
P301:1993年の中建審建議「公共事業に関する入札・契約制度の改革について」は、大規模工事への一般競争入札の採用を求める一方で、公共事業の質を高めるために多様な入札・契約方式の導入を検討すべきと指摘した。これを受けて、1998年の中建審建議「建設市場の構造変化に対応した今後の建設業の目指すべき方向について」では、<中略>、「予定価格の事前公表についても、<中略>、透明性、競争性の確保や予定価格の上限拘束性のあり方と併せ、今後の長期的な検討課題とすべきである」と述べ、会計法令の見直しの必要性を婉曲ではあるが指摘した。
P329:アメリカはじめ世界各国は既に、狩猟民族的な一見限りのビジネス感覚では良質な建設工事の調達ができないことに気付き、実績重視で「長い付き合い」を大事にする農耕民族的ビジネスを取り入れ始めた。わが国では、入札にまつわる不祥事が起きるたびに主観(技術判断)を排除し客観(価格)至上主義に陥る傾向がある。目先の安さにとらわれて「安かろう悪かろう」ではなく、「良い買い物」をすることが発注者の責任であると自覚するべきである。長い付き合いを大事にする農耕民族型ビジネススタイルを育んできたわが国こそ、自信を持って日本流の「成績評定」「受発注者協議」を海外に宣伝すべきではないか。透明性を確保しつつも「信用」や「実績」を重視する傾向は、むしろわが国の社会が本来有していた長所でもある。公共調達において目指すべき方向と考えられる。
P360:欧米先進国では、一般競争入札が中心であった時代に低価格で受注した企業が利益を確保しようと変更増額要求が激化し、発注者・受注者間の紛争が絶えなくなったり、手抜きが頻発、弁護士費用でかえって高い買い物になるなど、価格競争に辟易し始めた。
目次
はじめに、P5
第1章 わが国の公共調達制度、 P20
土木の始まりから請負の発生まで、入札の始まり、請負業の成立と入札制度の導入 、明治会計法が制定されるまで、明治会計法の制定、指名入札の導入、戦時下の動乱期、戦後の法制度の整備、1961年の会計法成立、建設業登録制度から許可制へ、オイルショック後の入札契約、指名競争入札から一般競争入札へ、公共工事の品質確保、公共工事品確法の改正、
第2章 海外の公共調達制度、P158
ヨーロッパの公共調達、アメリカの公共調達、その他の国々における公共調達、国際調達におけるリスク管理
第3章 国内外の建設コンサルタント業務等の調達方式、P236
わが国の建設コンサルタント業務等の調達方式、FIDICが推奨する建設コンサルタント選定方式、アメリカの調達方式、EU諸国の調達方式、わが国のサービス調達改革の方向性
第4章 さらなる公共調達改革に向けて,P288
西洋にならったはずのわが国の入札契約制度の今、明治会計法制定以来変わらぬ枠組み、なぜ変わらない?入札契約制度の枠組み、入札契約制度改革の課題、企業評価制度の課題、土木学会における公共調達改革の方向性、わが国の公共調達改革の道筋
おわりに、P370