柴田三千雄 フランス史10講 岩波新書 2006.5.19

P4:これからフランス史という「西洋史」の一部分の話をはじめるにあたって、それが適切な自己認識の手段となるためには、どのような点に自覚的に留意すべきかについて、あらかじめ二点のことを述べておきたい。

第一に、フランス史が日本の自己認識に役立つためには、フランス史と日本史とを関連づけ る何らかの比較史の方法が必要であるが、実はフランスも日本も長期的な歴史分析の自己完結的な単位ではない。一国史の集積が世界史だと考えるのは、一九世紀に生まれた「国民国家」という国家モデルの観念にすぎない。フランスは、「ヨーロッパ地域世界」という、より広い歴史空間に属しており、フランス史の展開は、そのなかでこそ理解できる。同様に、日本は「東アジア地域世界」に属している。

第二に、地域世界とはそれぞれが固有の拡がりや構造をもっていて、固定的ではない。それ は歴史的な形成体であると同時に、それぞれが相互に規定しあう関係にあり、歴史的な発展に応じて地域世界の拡がりや構造が変容するとともに、その関係の総体である世界体制も転換する。

これらの変化を認識するため、歴史学では「時代区分」をおこなうのだが、本書は現代を理解することを主眼とするため、次のような区分をもうける。

ヨーロッパ地域世界が外部に進出して東アジアや他の地域世界と直接関係をもちはじめ、グローバル化の第一期がはじまる一六世紀を大きな区分とし(4)

ついで、その第二期に入る一八世紀後半(6)

そして、 その第三期に入ったと思われる二〇世紀後半(10)の三つを設定する。

それ以前は、近代の展開の土台となり、その展開を条件づける構造的要因が形成される地域世界の生成の時期である(3講まで)

 

目次

1講 「フランス」のはじまり

2講 中世社会とカペー王国

3講 中世後期の危機と王権

4講 近代国家の成立

5講 啓蒙の世紀

6講 フランス革命と第一帝政

7講 革命と名望家の時代

8講 共和主義による国民統合

9講 危機の時代

10講 変貌する現代フランス